Case Studies
事例紹介
Case Studies 1
誤解を引き起こす様々な要因
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Case Studies 1-1
調査概要
出典​:張貞京・真下知子「保護者-保育者間のコミュニケーションにおける誤解事例の収集」京都文教短期大学研究紀要54,p。47~57,2015 https://ci.nii.ac.jp/naid/110010016351
誤解を引き起こす要因を探るため、京都府下の保育所に協力依頼を行いました。実施時期は、2014年から進めています。誤解に関するアンケート調査は、全419名の回答を得ることが出来ました。
保育者対象のアンケート調査で行った質問項目は、以下の7項目です。
① 保護者の言った(書いた)ことまたは行動を、あなたが誤解したことがありますか。(はい・いいえ)
②(もしあれば)それはどのような状況で、どのような表現や行動が招いた誤解であるのか、できるだけ詳しく述べてください。
③ 上記の経験があなたの保育に影響を与えることがありましたら、自由に述べてください。(はい・いいえ)
④ あなたの言った(書いた)ことまたは行動が、保護者に誤解されたことがありますか。(はい・いいえ)
⑤(もしあれば)それはどのような状況で、どのような表現や行動が招いた誤解であるのか、できるだけ詳しく述べてください。
⑥ 上記の経験があなたの保育に影響を与えることがありましたら、自由に述べてください。
⑦ 今後、この調査結果がまとまり次第、先生方にフィードバックし、問題解決に向けて、一緒に考える研修会を実施したいと
思いますが、参加したいと思われますか。(参加したい・参加したくない)
●これまで私たちが行ったアンケート調査より、誤解の要因を考える時、次のような6つの視点があることがわかりました。
(1) 時間的なずれ
話のタイミング、話す機会が得られないなど
(2) コミュニケーションの媒体
電話、連絡帳、日誌、子ども、家族、他の保護者など
(3) 伝達表現の問題
言葉の表現、説明不足、説明過多、受け取り方など
(4) 場面
集団の人数、限られた時間、送迎時の忙しい時、複数の保護者がいる時など
(5) 認識のずれ
専門機関、相談、子どもの姿に対する向き合い方など
(6) 対応・確認不足
対応の仕方、園の方針、園内のコミュニケーションなど
●それぞれの事例をみてみましょう。
Case Studies 1-2
カテゴリー化した実際例
(1) 時間的なずれ
話のタイミング、話す機会が得られないなど
運動会で和太鼓を…昼寝の時間に子どもが練習をしたいと言ったので練習させていました。後日、その子の保護者から「うちの子は太鼓が叩けないから昼寝せずに練習させられているんですか?」と電話がありました。お迎え時に保護者に会えず、伝えられなかった事が原因でした。
(2) コミュニケーションの媒体
連絡帳
毎日の連絡帳に子どもの姿をおもしろく伝えようと書いたが、保護者には「バカにしているみたいだ」と怒られた。
電話
電話で「はい」と返事したつもりが相手には「ふん」と聞こえたこと。
子ども
子どもに話した内容が、保護者に違う形で伝わり、保護者は子どもの言う事を信じるので誤解が生じてしまった。「先生はこのような考え方をされるのですか?私には理解できません…」などと。
家族
子どもの姿を母の変わりに迎えに来たおばに伝えた。急がれていたので、何があったか、どうなったかを簡潔に話したことで招いた誤解である。…
他の保護者
子どもとの関わりの中で、あえて言わなくても良いと思い保護者に報告しなかった事を、その場をみていた他の保護者がその保護者に話をした事で、実際とは少し違って伝わってしまった。誤解した保護者から問い合わせがあり、説明すると納得しておさまったが、…
(3) 伝達表現の問題
言葉の表現
大丈夫ですという言葉を安易に使い、具体的に何がどう大丈夫なのかと言われたことがあります。
説明不足
保育所であった事を説明するのに、言葉足らずで誤解をよんでしまった。
説明過多
起きた事についての対応、説明が長く、端的でなかったので伝わりにくかったと感じています。
受け取り方
…保護者に、怪我したことを伝える際、「○○君、園庭で自由に探索活動している時に、鉄棒でおでこを打ちました。」と説明した。私が、“自由”と発したことにより、子どもの姿や居場所を見ていないのかと誤解を招いた。…
(4) 場面
集団の人数
参観日などの行事で、困っていたことを見逃すと、先生に見てもらっていない。
限られた時間
子どもを大きな声で呼んだら「怒っているのか」「きつい」と言われた。
送迎時の忙しい時
降園時に、子どもの様子(遊んでいる姿)を伝えようとした際に、少し早く話しすぎて、…
複数の保護者がいる時
保護者に子どものことを伝える時、保護者にだけにわかるように他の保護者を離れた所、伝えたが他の保護者に内容を聞かれてしまったことをいわれた。充分に配慮したつもりでいたが個人情報のことは慎重に対処すべきと反省している。
(5) 認識のずれ
専門機関
心配な面を持つ子どもさんについて専門機関を紹介したところ、保ゴ者に、その機関への偏見があり、立腹された…
相談
気になる行動のある児童の母親に巡回相談の機会に本児をみていただき支援の仕方等アドバイスをいただきたい旨を伝えたところ、「うちの子を障害児と思っている」というような誤解をうけた。
子どもの姿に対する向き合い方
子ども(3才児)が保育園に入ってきて、半年位で、「○○するのは嫌」と主張出来た事を嬉しくて保護者に伝えたのが、「そんなわがまま言ってるんですね」と否定的に受けとめられた事。…
(6) 対応・確認不足
対応の仕方
発熱した子どもさん(KT38.0℃)の保護者に対してすぐに連絡せず、お迎えまであと1時間という事で自己判断し、様子をみて、その旨を伝えたが、すぐに電話をしなかった事で厳しい注意を受けた。
園の方針
よりそったことで、園への方針との間で板ばさみになった。
園内のコミュニケーション
日中起きたトラブルを遅出保育者が伝達。トラブルが起こった原因等が上手く伝わらず誤解を生み本人や保護者に一晩不快な思いをさせた。
Case Studies 2
誤解を3つの視点から考える
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出典:張貞京・真下知子「保護者-保育者間のコミュニケーションにおける誤解事例の収集V」日本保育学会第73回大会 発表要旨、2020
誤解を引き起こさないコミュニケーションスキルを身につけるために、状況、保育者の意図、保護者の行動の背景から誤解の原因を考えることが重要となります。下記の事例について考えてみましょう。
Case Studies 2-1
練習課題・記入例
※PDFをダウンロード、印刷し、ご記入いただけます。
課題1
好奇心旺盛で,活発な A ちゃん(3 歳児)について、降園時にお母さんから「今日はうちの子どうしていましたか?」と聞かれ、「今日も自由人でした!」と答えたところ,不快な表情をされました。 
課題2
運動会で和太鼓をします。 昼寝の時間に子どもが練習をしたいと言ったので練習させていました。後日、その子の保護者から「うちの子は太鼓が叩けないから昼寝せずに練習させられているんですか?」と電話がありました。 
Case Studies 3
誤解経験からの学び
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出典:張貞京・真下知子「保育者は保護者との誤解経験を保育にどう活かしているか」日本発達心理学会第27回大会 発表要旨、2016
 
誤解された経験の大小はありません。その体験を機に、保護者との関係が深まった場合もあれば、深く傷となり保護者対応が怖くなる場合もあります。しかし、たくさんの保育者が保護者に誤解された経験から学びを得ています。これからの道しるべとなる経験者の学びを紹介します。
① 保護者理解(考え方、状況)
体験事例
作品の説明文で背景や、使用した素材などを記入していなかった為に、作品が完成するまでに子どもたちが楽しんだ過程を伝える事ができていないと感じた事があった。
学び
保育を行っている者にとっては、当たり前で、理解できる事でも、保護者にとっては分からない事であるかも知れない、説明文などを丁寧に分かりやすく、伝えるようにしている。
体験事例
送迎時、保育士の膝の上で指すいしている場面を保護者が何度見て、「うちの子はいつも遊ばず、あんな風に甘えてばかりいる。」「遊ばせてもらっていない。」「指すいがなおらない。」の声が…。お便り箱に、「うちの子はお膝ばかりなんですか?」と書かれていたこともあった。保育士としてはスキンシップを十分にとってあげたいという思いがあったのですが…
学び
「スキンシップで甘えを受けとめてもらっている」というプラスの解釈をする保護者ばかりではないことに気づくことができた。家庭とは違う保育園の役割を常に頭におき、甘えに対する受け入れ、スキンシップを大切にしながら遊びに対する意欲を育てていくような働きかけを保育の中で積極的にしていかなければならないと感じた。保護者の目を意識するようになった。
体験事例
3才児クラスの担任をしていた頃のこと。入園当初、おもちゃがよく無くなり、1人の男児がポケットへ入れて持ち帰ることが続いた。お母さんに、「園のおもちゃは持ち帰っていたら、次の日には、持たせてください。」とお願いしたところ、「うちの子は、物を盗むことでストレス発散してるのでしょうか?」と、言ってこられた。
持ち帰ってしまうこと=盗みなのではなく、自分の物、みんなの物の区別がまだできていないだけであろうと話すと納得された。
学び
子どもの発育段階で、物を持ち帰ってしまう事例は、よくあることと、保育者は分かっているが、初めて子を持つ親は、マイナスに考えてしまいがちであることを理解し、保護者が安心するような形で話をすることを心がけるようにした。
体験事例
子どもたちに約束ごとを確認する時に、大切なことを覚えてね。「忘れないように、頭に鍵をかけましょう」と遊び心で子どもに伝えた。後日、保護者から、頭に鍵をかける指導はやめて下さいと言われた。
学び
言葉の持つ影響は大きいことを学んだ。
また人によって、受け取り方の違いがあると感じた。
正しい言葉を選び子どもたちへ伝えることを、心がけた。
② 信頼関係の構築をめざした日頃のコミュニケーションの充実
体験事例
送迎時の挨拶を自分ではしていたつもりであるが、ある保護者からは自分だけしてもらえない等の話があった
学び
子どもだけではなく親の状態も把握していく事の大切さと、挨拶をしっかりしてコミュニケーションを取っていかなければならない大切さ
③ 伝える表現の工夫
体験事例
大丈夫ですという言葉を安易に使い、具体的に何がどう大丈夫なのかと言われたことがあった。
学び
大丈夫という言葉は、自分が思っているだけで具体的にどうなのかということを伝えたり書くようになった。
④ 伝える内容の吟味(優先順位、詳しさ、理由)
体験事例
お部屋で便がゆるい子が多かったので、念のため便のゆるい子は1日紙パンツで過ごした。その日のノートに、“我が家は、1日紙オムツを特に希望しておりませんし、記載したこともございません。”と書いて持って来られました。感染を防ぐために行ったことが、誤解を招いてしまった。
​学び
ノートに変更したことやお知らせをする時になぜそうするのか、詳しく書いていく様にした。ノートにも書くが、なるべく直接話すようにすることも人間関係につながると感じた。(直接話をする様にもしている)
体験事例
転んで、怪我をし、処置したことをお便り帳に書いていたが、言葉が足りず、担任から直接説明をしてほしかったと言われた。
学び
怪我の大小に関わらず、直接保護者に状況や処置内容、その後の経過を丁寧に伝えることが大切だと再認識した。
⑤ 子どもの姿・保育内容の共有
体験事例
年少児の担任をしていた際に、子どものジャンパーが少し破れており、 子どもに確認すると「前から破れていた…」と答えたが、母親には「園で破れた…」と言ったようで、そこで双方に誤解が生じてしまった。
​学び
子どもは架空の話を織り混ぜて話すこともあるので、少しのことでも親に伝えて確認するようになった。
体験事例
支援を必要とする園児の保護者と、運動会の競技内容や参加の仕方について、思いが食い違っていた。練習の経過や本児の様子等話し、どのような内容のことをするのか等、保護者に伝えてはいた。また、園側も担任同士話し合い、無理なく出来る内容にしていた。
運動会当日の姿を見て、数日後、保護者から「見ているのがつらい運動会だった」と話をされた。本児の特性がよく出てしまい、他児との比較、差があったことなどが、保護者にとってはつらかったようである。 
担任としては、本児の挑戦しようとしている姿や楽しんでいる姿などを見てほしい思いであったが、保護者は本児のできる内容、なるべく周囲から見て差が出ない内容にするなど配慮をしてほしい思いであったようだ。
学び
担任の自己満足の保育でないか見直すことの大切さを感じた。
また、保護者との意思の疎通の重要性を感じた。園での様子をできるだけ詳しく伝えている。そして行事の事などは、保護者の思いも聞き、担任の思いも伝え、同じ思いで保育できるように心掛けている。
 また、支援を必要とする子どもと他児と一緒に保育することの難しさも感じた。どちらもが満足し、互いに成長できる保育を見直していきたいと考えるようになった。
体験事例
いけないことをしたことに対して注意をし、どうして、してはいけないのかを伝えていたが、その怒り方が保護者の方からしたら、一方的に怒っていると勘違いをされてしまった。(怒り方が悪いと言われた。)
学び
厳しく怒った際は、その都度保護者の方にきちんと伝えていくべきだと思う。
Case Studies 4
まとめ・連絡先
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紹介事例やワークを通してどのように感じられたのでしょうか。これらの事例は特別な例ではなく、どこでも発生しうるものです。日々、保護者と関わる中で思い出していただければ幸いです。
最後になりましたが、これらの事例収集と学びについて、たくさんの保育者の方にご協力いただきました。この場を借りて深くお礼を申し上げます。
ご協力いただいた保育者の皆さまからは、日々の保育に取り組む中で、保護者対応に悩みながらも手応えを感じている姿が語られています。そして、同じように悩んでいる保育者やこれから保育者を目指す学生への応援のメッセージもいただきました。このページが皆さまにとって、学びを手伝う小さいきっかけとなれることを願っています。
ホームページ上では紹介できていませんが、保護者が体験した事例も調査しています。その中で、保育者への感謝を述べている保護者も複数おられました。保護者も日々悩みを抱えながら、分かり合える相手を求めているのが分かります。日々、保護者との関わりの中で、互いの気持ちや考えを伝え合い、分かり合えているか意識しながらコミュニケーションを進められれば、子どもの未来を守るために手をつなぐ大人同士の関係が作られるのではないでしょうか。
※本ホームページは科学研究費(基盤研究 C・課題番号26381112)の助成を受けて行った研究の一部を紹介しています。